家庭菜園を始める前、私は畑というものを、作物を育てる場所だと思っていた。もちろん今もそうなのだが、実際にやってみると、作物だけを見ていれば済むわけではない。むしろ、こちらが植えた覚えのない草や、呼んだ覚えのない虫の方が、圧倒的に多い。
「どこから来たのか」
畑にいると、何度もそう思う。草なら、昨日まで何もなかったように見えたところが、数日後には一面緑になっている。虫なら、葉に穴が開いているので裏返してみると、そこに見たこともない幼虫がいる。
先日は、八つ頭の葉がかなり食べられていた。葉を見ていると、小指ほどの太さがある、5センチを超える大きな芋虫がついていた。色と模様から、どうやらセスジスズメの幼虫らしい。そこまで大きくなるには、相当食べたはずである。実際、八つ頭の葉には、はっきり食べられた跡が残っていた。幼虫はつかまえて、林の方へ放り投げた。
「ヤブガラシの葉でも食ってろ」
心の中では、かなり本気でそう思った。その後も、同じ色と模様の2センチほどの幼虫を2回見つけた。大きさが違うので、別の時期に孵化したものなのだろう。
「いったい、どこから来たのか。」
考えてみれば、幼虫が歩いて遠くから来たのではなく、夜にスズメガの成虫が飛んできて、八つ頭の葉に卵を産んだのだと思う。卵の時は目に入らず、孵化したばかりの小さな幼虫も気づかない。それが葉を食べ、ある日突然、小指ほどの大きさで姿を現す。こちらから見ると突然だが、虫の側では、ちゃんと時間が流れている。
雑草も似ている。地面の下には、種や地下茎や根が残っている。こちらが見ていない間も準備をしていて、条件がそろうと、一斉に地上へ出てくる。こちらからすれば、「また出た」である。雑草も虫も、何もないところから急に現れたわけではない。ただ、こちらが気づいていなかっただけなのだろう。
最近、畑や庭では、メヒシバを中心とした夏草が一面を覆うようになった。去年までは、ドクダミ、笹、クズ、ヤブガラシがかなり強かった。今も林との境ではヤブガラシが蔓延ってくるし、ドクダミも部分的には群生している。ただ、敷地全体では、地下茎で場所を支配する草より、刈られたあとに種から一気に立ち上がる夏のイネ科雑草が目立つようになった。私が繰り返し刈り、掘り、耕したことで、草の種類が変わってきたらしい。
虫も同じで、畑に何を植え、周囲に何を残すかで、来る虫も変わるのだろう。花が咲けば蜂が来る。池があれば水を飲みにスズメバチが来ることもある。ヤブガラシがあれば、そこを食草にする虫も来る。畑、庭、林、池は、こちらが思う以上につながっている。作物だけを育てているつもりでも、実際には、その周囲を含めた一つの環境を作っているのだと思う。ただし、だからといって、虫と仲良くなれるかというと、それはまた別の話である。
雑草について、少し深掘りしてみる
去年、この土地では、いろいろな草が好き勝手に生えていた。笹、クズ、ヤブガラシ、ドクダミ。背の高い草もあれば、地面を覆う草もあり、つるで他の植物へ絡みつくものもあった。畑を始めたころは、それらをまとめて「雑草」として見ていた。抜くか、刈るか、耕すか。どれも邪魔な草でしかなかった。
ところが、一年ほど管理を続けると、草の様相が変わってきた。最近、敷地のかなり広い範囲で目立つのは、メヒシバを中心とした夏のイネ科雑草である。しばらく私は「姫芝」と呼んでいたが、どうやら「雌日芝」と書くメヒシバのことだったらしい。穂が指や箒のように放射状に広がる草である。ほかにも、猫じゃらしと呼ばれるエノコログサ、漢字で書けば狗尾草、麦のような穂をつける草など、何種類かが混じっている。去年は、穂が出てもそのままにしていた。あちこちで穂をつけ、大量に種を落としたと思う。今年は、箒のような穂が見え始めたら、なるべく早く刈るようにしている。穂が一本出たということは、周囲の株もそろそろ出穂する時期に来ている。種が熟す前に、その区画をまとめて刈る。すべて消そうとは思っていない。メヒシバは、伸びても刈りやすい。刈った草は畝間の草マルチにも使える。地下茎でどこまでも広がるクズやヤブガラシに比べれば、まだ付き合いやすい。
今年、北ほ場では、6月15日に一度草を刈り、米ぬかを入れて耕した。ところが7月20日には、また一面、30センチほどの夏草に覆われていた。それでも、種類を見ると、ほとんどが同じようなイネ科雑草で、ほかの草はわずかだった。そこで刈払機で一気に刈り、草は南ほ場へ運んだ。ニンジンと里芋の畝間、トマトの通路へ敷くと、35平方メートル分の草なので、かなりの草マルチになった。北ほ場は、もう一度耕し、透明マルチを張って、9月のアブラナ科定植まで熱養生する予定である。つまり、同じ草でも、場所によって扱いが違う。畑の中では、次作のために抑える。畝間では、乾燥を防ぐマルチとして使う。庭や通路では、低く刈りながら地面を覆わせる。
以前は「雑草はなくすもの」と考えていたが、今は、どこに、どの草を、どの程度残すかを考えるようになった。ドクダミも、以前はかなり広い範囲で優勢だったが、今は部分的な群生になっている。地下茎が濃く残った場所では出てくるが、繰り返し刈った場所や耕した場所では、メヒシバなどに入れ替わった。クズは、ほぼ姿を消した。たまに、残った根から出たと思われる小さなつると葉を、4、5か所で見かける程度である。見つけたら、葉を広げる前に切る。林との境では、ヤブガラシがまだ強い。林の中ではなく、明るさがあり、つるを絡ませる相手もある林縁が、ヤブガラシには都合がよいのだろう。道路沿いには、ところどころススキがある。ここは柵を整備する予定なので、きれいに刈り、見通しのよい境界にしたい。メマツヨイグサは、2、3メートルまで伸ばしたあと、一斉に刈った。大きな株の足元には、ほかの草がほとんどなかった。メマツヨイグサが光を遮り、地表の草を抑えていたのだと思う。ただ、刈った後は裸地になる。そこへ、次に何が生えるのか。たぶん、今の流れならメヒシバが入ってくる。
雑草は、刈れば終わりではない。一つの草を取れば、別の草が入る。背の高い草を刈れば、地面に光が当たり、眠っていた種が芽を出す。こちらの管理によって、草の種類は変わる。最近は、敷地全体の雑草が、私の刈り方に少しずつ反応しているように見えてきた。まだ「植生を設計している」などと言えるほどではない。ただ、好き勝手に生えていた草を追いかけるだけだったところから、どこを刈り、どこを残し、次に何が出るかを見るようにはなった。雑草を見る目も、去年とは少し変わってきたと思う。
でもやっぱり、虫は嫌い
私は、自然の中で畑をやっている。畑の周囲には草地があり、林があり、池がある。それなのに、虫が大嫌いである。自分でも、少し笑ってしまう。昼間、花の周りを蜂やほかの虫がブンブン飛んでいる。受粉してくれているのだから、理屈ではありがたい。心の中では、「多謝」である。ただし、近くへ来ないでほしい。熊蜂のように大きな蜂が、低い音を立てて飛んでくると、体が勝手に避ける。幸い、畑ではスズメバチを頻繁には見かけない。ただ先日、池に大きなスズメバチが水を飲みに来ていた。でかい。かなりびっくりした。しばらくすると、どこかへ飛んでいった。おそらく、水を飲みに来ただけなのだろう。理屈では分かる。しかし、恐怖である。
7月の夜、23時ごろには、薄い黄緑色で、コオロギのような形をした虫が、突然机の上に現れた。ここは屋内である。窓を開けた時に入ったのか、服についてきたのか、網戸や扉の隙間から入ったのか、まったく分からない。
「いったい、どこから入ってきたのか」
草も虫も、これが多い。畑では、葉の裏へ手を入れる前に、少し身構える。草むらへ入れば、何かが跳ねる。支柱を動かせば、見たことのない虫が出てくる。小屋の中には、蜘蛛もいる。以前、プレハブ小屋の中に蜘蛛が結構出るという話もした。気にならなければ放っておいてもよいのだろうが、気になる。私は虫が嫌いなのである。八つ頭についたセスジスズメの幼虫も、葉を食べる害虫だから駆除した、というだけではない。見た目が怖かった。小指ほどの大きさで、模様があり、葉にしがみついている。あれを素手でつかめるほど、私は達観していない。何とか落として、林へ放り投げた。
「ヤブガラシでも食ってろ」
ヤブガラシなら、いくら食べてもよい。むしろ、全部食べてくれ、とまで思う。もっとも、私の出来のいい相棒によると、セスジスズメの幼虫は本当にヤブガラシも食べるらしい。あながち、無茶な命令ではなかった。自然の中で畑をやるなら、虫がいるのは当たり前である。蜂が受粉し、ミミズが土を動かし、蝶や蛾が飛び、鳥やカエルも来る。池にはメダカがいて、トンボも来る。そういうものがつながって、畑や庭の環境ができている。頭では分かっている。それでも、虫は嫌いである。一向に慣れない。たぶん、これからも慣れないと思う。畑は好きだが、虫は怖い。受粉には感謝するが、ブンブン近づいてほしくない。葉を食べるなら、せめてヤブガラシを食べてほしい。
このくらいの距離感で、虫とも付き合っていくしかなさそうである。


