03.「消費者に分かってもらえば売れる」と、本気で思っていた

2026/08/17

有機農業の流通・販売・制度論

有機農業は、なぜなかなか広がらないのでしょうか。

価格が高い。量が少ない。安定供給が難しい。流通が整っていない。そして、「消費者の理解が足りない」。こうしたことは、ずっと言われてきました。どれも間違いではありません。私自身も長い間、特に「もっと消費者に分かってもらうことが必要だ」と考えていました。


有機農産物はなぜ高いのか。どんな人が、どんな考えで作っているのか。なぜ有機農業が必要なのか。それをきちんと説明すれば、理解してもらえる。理解してもらえれば、買ってもらえる。本気でそう思っていました。


2003年頃、個人宅配の立ち上げに関わっていたときのことです。


新聞折り込みやタウン紙に広告を出し、「お試しセット」を募集します。野菜の写真や宅配の仕組みを紹介し、興味を持った人から電話をもらいます。そこでアポイントを取り、野菜ボックスを持って一軒一軒訪問しました。


忙しいときには、営業担当一人で午前3軒、午後3軒、一日6軒くらい回ることもありました。それだけ関心を持ってくれる人がいたということでもあります。訪問すると、未就学児や小学生くらいの子どもを持つお母さんが多く、こちらの説明をじっくり聞いてくれました。


当時の宅配は、入会金や年会費も必要で、今から考えればかなりハードルの高い仕組みでした。それでも、その場で「入ります」と決める人もいました。一方で、話を聞いて納得はしても、「やってみたいけれど、会費が……」「商品の値段が……」と入会しない人もいました。


何軒も回っていると、玄関に入って少し話しただけで、だいたい分かるようになります。


「あ、この人は入るな」

「この人はたぶん入らないな」

「お試しだけかな」


もちろん全部当たるわけではありません。でも、不思議なくらい、説明を始める前から雰囲気がありました。話を全部聞いた結果、「なるほど、よく分かりました。それなら入ります」と考えを変える人は、実はそれほど多くなかったように思います。


こちらは最後に、「今日決めなくてもいいですよ。ご主人とも相談して、何日か考えてください」と言います。でも、その場で決める人、あるいは2、3日で返事をくれる人はだいたい入会します。1週間以上たって返事がない人は、そのままということが多い。ところが、たまに1か月くらいたって突然、「入ります」と電話をくれる人もいました。そういう人に聞くと、「忙しくて連絡できなかっただけです」と言います。


つまり、その人も説明を聞いて一か月悩んだ末に理解したというより、最初からかなり入るつもりだったのでしょう。


この経験は、あとになって考えるとかなり大きかったと思います。


私たちは「説明すれば理解してもらえる」「理解してもらえば買ってもらえる」と思っていました。でも実際には、すでに関心のある人が広告を見てお試しセットを頼み、その中でも自分の生活や価格、仕組みに合う人が入会していた。説明はもちろん必要です。でも、説明そのものが需要を作っていたのか、と言われると、少し違ったのではないかと思います。


そして今は、当時よりさらに状況が変わっています。


有機JASという制度も長く続きました。テレビや新聞、インターネットでもオーガニックという言葉を普通に見ます。影響力のある人が、オーガニックの商品や食生活について話すこともあります。今の消費者は、「有機」「オーガニック」と聞けば、少なくとも「何か良いものらしい」「環境や健康を意識したものらしい」という程度の認識は、かなり持っているのではないでしょうか。もちろん、その理解の深さには差があります。


でも、私たちの目的は、全員を有機農業の専門家にすることではありません。選んでもらうことです。買ってもらうことです。


そう考えると、そこでまた一から「有機農業とは」「なぜ良いのか」と教育しなければならない、という発想には、私はかなり違和感があります。少し強い言い方をすれば、「消費者教育」という言葉自体がおこがましいと思うのです。


消費者の理解が足りないから有機が広がらない。だから、こちらが教えてあげなければならない。


これは、かなり上から目線の考え方ではないでしょうか。


消費者は、もうある程度知っています。だったら、必要なのは「もっと勉強してください」と言うことではなく、選べる状態を作ることです。例えば、野菜を4回買ううち1回、有機を選んでもらえれば25%です。毎回有機を買う人だけを増やさなければならないわけではありません。近所のスーパーへ行ったときに、有機と一般の野菜が普通に並んでいて、「今日はこっちにしよう」と選べる。まず、その状態を作る方が大事だと思います。


むしろ今、教育が必要だとすれば、消費者よりスーパーの側かもしれません。


有機農産物を売場に置くことを、青果担当者やバイヤーがためらう理由の一つに、「お客さんに聞かれたら答えられない」という問題があります。


「これ、普通の野菜と何が違うの?」

「有機ってどういう意味?」


お客さんに聞かれたとき、売場の人が答えられない。だから面倒だと思う。有機農産物を置くこと自体に慎重になる。トップから「有機をやろう」と言われて、渋々置いているように見える売場もあります。そう考えると、必要なのは「消費者教育」より、「売る側が有機を普通の商品として扱えるようになること」ではないでしょうか。


消費者教育はいらない。


ただし、食育はいらないと言っているわけではありません。食べものや農業について知る機会は必要です。でも、有機農産物を広げるために、「消費者の理解が足りない」と言い続けることには、私はもう意味を感じません。それより、買える場所を増やす。選べる売場を作る。売る人が普通に説明できるようにする。


本の中では、この考えを「有機を特別なままにしない」という言葉でまとめました。私自身は、その反対側から始めています。


有機は特別なものです。その価値を一生懸命説明しなければ売れない。そう信じて、お試しセットを車に積んで、一日何軒も家庭を回っていた側です。


だから今、「説明することより、普通に買えるようにする方が大事なのではないか」と言っているのだと思います。


本書参照:

序文「本書の視点 有機を特別なままにしないために」8〜12ページ

第2部2「『理解してもらえば売れる』と信じていた時代」29〜32ページ

第4部4「スーパーや売場は、何を求めているのか」56〜57ページ