11.有機が広がらないのは、誰のせいなのか

2026/09/19

有機農業の流通・販売・制度論

前回まで、昔の有機農業を支えた流通の仕組みについて書いてきました。
産消提携があり、八百屋があり、共同仕入れセンターがありました。農家と作付を決め、毎週出荷量を調整し、たくさん採れれば「振り分け」で八百屋も引き受ける。農家、センター、小売で6:1:3という考え方もありました。
今から見れば、かなり特殊な仕組みです。
でも、その時代には必要だったのだと思います。
有機野菜を普通の市場に出せば普通に売れる、という時代ではありません。作る人も少ないし、買う人も少ない。流通もありません。だから、自分たちで小さな仕組みを作って、その中で農家を支えてきました。
その仕組みがあったから、有機農業が残った。それは間違いないと思います。
ところが、私はその世界の中で仕事を続けるうちに、少しずつ疑問を持つようになりました。

有機農業は、なぜ広がらないのか。

この話になると、理由はいろいろ出てきます。
値段が高いから。
量が少ないから。
安定供給できないから。
流通が整っていないから。
スーパーが扱ってくれないから。
消費者の理解が足りないから。
どれも間違いではありません。
私自身も、そう思っていました。
特に八百屋をやっていた頃は、「有機野菜の良さをもっと知ってもらえば売れる」とかなり真面目に思っていました。農家に店へ来てもらって説明してもらったり、生産者交流会をやったり、お客さんに農業の話をしたりしました。


その後、個人宅配の営業をしていた時も同じです。
お試しセットを持って、「こういう農家が作っています」「こういう考え方で農業をしています」と、一生懸命説明しました。
説明すれば分かってもらえる。
分かってもらえば買ってもらえる。
買う人が増えれば、有機農業は広がる。
かなり長い間、そう考えていました。
でも、何年たっても、有機農業はそれほど広がりません。
もちろん少しずつは増えました。スーパーにも有機野菜が並ぶようになりました。有機という言葉を知っている人も増えました。
それでも、農業全体から見れば、まだごく小さい。
そこで、だんだん別のことを考えるようになりました。
本当に、原因は全部、有機農業の外側にあるのだろうか。
「消費者が分かってくれない」
「スーパーが売ってくれない」
「流通がない」
「行政の支援が足りない」
そう言っているだけでいいのだろうか。
前回まで書いてきたように、有機農業は自分たちを守るために、特別な仕組みを作ってきました。

有機専門の流通。
有機専門の店。
有機を理解してくれる消費者。
有機を応援してくれる人たち。

それは必要でした。
ただ、その世界の中で長くやってきた結果、「有機は特別なもの」という考え方を、自分たち自身も強くしてしまったのではないか。
そう考えるようになりました。
いいものだから、少し高くても買ってほしい。
農家が大変だから、支えてほしい。
環境のためになるから、理解してほしい。
その気持ちは分かります。私自身が、そう言って売ってきた側です。
でも、普通にスーパーへ買い物に行く人が、毎回そこまで考えて野菜を買うでしょうか。
仕事帰りにスーパーへ寄って、夕食の材料を買う。冷蔵庫に人参がなければ人参を買う。トマトが必要ならトマトを買う。
その時、近所のスーパーに有機野菜がなければ、そもそも選びようがありません。
あっても、使いたい量ではない。
値段が大きく違う。
いつ行ってもあるわけではない。
その状態で、「消費者の理解が足りない」と言っても、少し順番が違うのではないかと思うようになりました。

理解してもらう前に、まず普通に買えるようになっているのか。

有機農業が広がらない理由を考えるなら、外側に理由を探すだけでは足りません。
有機農業の側が、これまで何を当たり前だと思ってきたのか。
そこも一度、見直した方がいい。
次は、その中でも私自身が長く信じてきた、
「理解してもらえば売れる」
という考え方について、もう少し書いてみようと思います。

本書参照:
第2部「なぜ、有機は広がらないのか」27ページ~