以前は、新しく有機農業を始める人から、「有機JASは取った方がいいですか」と聞かれることがよくありました。
最近は、あまり聞かれなくなったように思います。有機農業を本格的にやるのであれば、有機JAS認証を取るという考え方が、以前より普通になってきたからでしょう。
むしろ最近では、逆にこちらから、「本当に、いま有機JASが必要ですか」と聞きたくなることがあります。
有機JASを取ること自体を目標にして、新しく農業を始めようとする人がいるからです。
私は有機JASの検査員をやっていますから、認証そのものを否定するつもりは当然ありません。ただ、認証は農業経営の目的ではありません。
スーパーや一般流通に有機農産物として出したい。ある程度まとまった量を流したい。「有機」と表示して、不特定多数の人に販売したい。そういう段階になれば、有機JASは必要になります。
しかし、まだ何をどのくらい作れるのかも分からない。畑の状態も分からない。売り先も決まっていない。その段階で、最初に認証のことだけを考えても仕方がありません。
前回まで書いてきた話と同じです。
自分の畑で何が作れるのか。どのくらいの量を作れるのか。誰に売るのか。どんな農業をしたいのか。
それを考えた結果として、必要なら有機JASを取る。
私は、その順番だと思っています。
一方で、販売上は必ずしも必要ではなくても、自分の農業に一つの物差しを持つために有機JASを取る人もいます。
これは、とてもいい使い方だと思います。
有機JASの基準に沿って生産し、必要な記録を残し、第三者の検査を受ける。それによって、自分がやっている農業を客観的に確認することができます。自分では有機農業をやっているつもりでも、何を基準にそう言っているのかが曖昧なままより、共通の物差しを持つことには意味があります。
ただし、認証には当然、手間も費用もかかります。
この話をすると、よく「有機JASは記録が大変だ」「手間がかかる」と言われます。
私は、それを聞くと、「それは仕事でしょう」と思います。
農業に限らず、仕事には、その仕事をするために必要な作業があります。帳簿を付けることもありますし、在庫を管理することもあります。農薬や肥料の使用記録を残す仕事もあります。
手間がかかること自体を、有機JASを取らない理由にするなら、無理に取る必要はありません。
大事なのは、その手間と費用に見合うものがあるかどうかです。
認証を取ることで、どんな販路へ入れるのか。その販路へ出せる量を本当に作れるのか。販売量や価格にどう反映されるのか。あるいは、自分の農業を管理する仕組みとして認証を利用するのか。
そこを考えればよいのです。
有機JASは、「正しい農家」の証明ではありません。「意識の高い農家」が取る資格でもありません。
制度です。
そして制度は、それを使って何をするかという目的があって初めて意味を持ちます。
一般流通へ入り、不特定多数の消費者に有機農産物として販売するのであれば、誰が作ったものでも同じ意味で「有機」と理解できる共通のルールが必要になります。有機JASは、そのための仕組みです。
逆に、自分の店で、自分のお客さんに、自分の農業を説明しながら売るのであれば、必ずしも認証が必要とは限りません。
どちらが立派だという話ではありません。
自分は何を作り、誰に、どのように売るのか。
有機JASを取るかどうかも、その中で決まってくるものです。
制度から農業を考えるのではなく、自分の農業を考えた結果として、必要な制度を使う。
私は、そのくらいの順番で考えるのが自然だと思っています。
本書参照:
第3部「作るだけでは足りない 生産者も『誰に、何を、どう売るか』を考えなければならない」
4「JASを取るかどうかも、どこに売るかで決まる」
