19. 「ブランディング」すれば、売れるという話

2026/11/03

有機農業の流通・販売・制度論

農業の相談をしていると、今でも「もっとブランディングしたい」「ブランド化して、もっと高く売りたい」という話をよく聞きます。

その気持ちは分かります。ただ、私は「ブランディング」という言葉が、かなり曖昧なまま使われているように思います。

ロゴを作る。商品に名前を付ける。おしゃれな袋を作る。ホームページやSNSをきれいにする。それを「ブランディング」と呼んでいることが少なくありません。

もちろん、それらもブランドを伝えるための道具ではあります。しかし、ロゴを作ったからブランドができるわけではありません。

かなり以前、滋賀県の近江米を売っていこうというプロジェクトに関わったことがあります。滋賀県は米の大産地ですから、近江米全体の販売をどうするかという取り組みで、その中には有機米も含まれていました。

そこに大学のマーケティングの先生が入りました。消費者アンケートを取り、ネーミングを考え、琵琶湖をイメージしたようなロゴを作り、統一感のあるパッケージにする。いかにも「ブランド米」という商品が出来上がりました。

それを店頭に並べてアンケートを取れば、「きれいですね」「いいですね」「これなら売れそうですね」と言う人はいます。

ところが、実際には思うように売れませんでした。

私は会議で、「それで、本当に売れたんですか」とかなり強く言ったことがあります。その先生とは大喧嘩に近い状態になりました。その後もしばらく、講演でその米の写真を見せながら、「これをマーケティングだと思ったら駄目ですよ」という話をしていました。

そもそも私がその仕事に呼ばれたのは、滋賀県の米を首都圏でもっと売りたい、という話だったはずです。

それなら、最初に考えることはロゴではありません。

滋賀県で作った有機玄米を首都圏で精米して売るのであれば、まず首都圏で有機米を扱える精米所や米屋を探す。それを誰が仕入れ、どこで売り、どう運び、いくらなら商売になるのかを考える。

こちらが先です。

本では4Pという考え方を紹介しました。Product、Price、Place、Promotionです。商品の中身も大切ですし、それをどう伝えるかも必要です。しかし、売る場所も流通も決まっていないのに、Promotionだけを一生懸命やっても商品は流れません。

そして、ここには「マーケティング」と同じくらい、「ブランディング」という言葉の誤解もあると思っています。

私は、ブランドというものは、「よし、今日からブランドを作ろう」と言って作れるものではないと思っています。

毎年きちんとしたものを作る。約束した時期に届ける。品質を安定させる。問題があればきちんと対応する。店でいつも買える。食べておいしかった。また買った。それを何年も繰り返す。

そういうさまざまな経験の積み重ねによって、「あそこの農家なら大丈夫だ」「この名前なら買ってみよう」「少し高くても、これを選ぼう」と思ってもらえるようになる。

その結果として、ブランドができていくのだと思います。

ですから、ブランディングは何もしなくていい、という話ではありません。自分がどういう農家なのか、何を大切にするのか、誰に何を届けたいのかを考え、その考え方を商品、売り方、接客、情報発信まで一貫させることは必要です。

ただし、こちらが「こう見られたい」と思うことと、実際にお客さんから「こういう農家だ」と評価されることは別です。

ブランドを決めるのは、最後は相手です。

立派なロゴを作っても、野菜がおいしくなければブランドにはなりません。きれいなホームページを作っても、注文した商品が届かなければ信用はなくなります。逆に、ロゴなどなくても、何年もきちんとした商品を届け続け、「あの農家のものなら間違いない」と言われている人は、すでに十分ブランドになっています。

農業でマーケティングが上手な人も、必ずしもマーケティング用語を知っているわけではありません。市場を見て、流通業者と話し、「今はこういうものが必要なんだな」と感じ取り、自分ができることと組み合わせています。理屈より、農家としての嗅覚でやっている人もいます。

新しく農業を始めるなら、まず見るのは畑です。そこで何が作れるのか。次に、自分一人なのか、家族がいるのか、雇用するのかという労働力です。

何を、いつ、どのくらい作れるのか。

ここが分からないのに、誰に売るかも、価格も、パッケージも決められません。

マーケティングとは、自分を知り、相手を知り、その間をどうつなぐかを考えることです。

ブランディングは、その上で日々やってきたことが、相手の中に積み重なった結果として生まれてくるものです。

ロゴやパッケージは、そのあとでいい。

必要なら、その時にきちんと作ればいいのです。

本書参照:

第3部「作るだけでは足りない 生産者も『誰に、何を、どう売るか』を考えなければならない」

3「マーケティングとは、ロゴやパッケージではない」