16.外の人に売ってもらう、という発想

2026/10/03

有機農業の流通・販売・制度論

有機農業を広げるのであれば、有機農業の外にいる人にも売ってもらわなければならない。今なら当たり前のことのように思いますが、私がそう強く考えるようになったのは、八百屋が少しずつ減っていった頃だったと思います。

共同仕入れセンターは、もともと八百屋のための仕入れセンターでした。農家が作ったものをセンターへ集め、それを八百屋に分け、八百屋が売る。それが基本の仕組みです。

ところが、その八百屋が減っていきます。

前にも書いたように、農産物が余れば「振り分け」で八百屋へ送ります。しかし八百屋の側からすれば、「こんなに送られても売れない」と文句が出ます。それなら振り分けをやめればいいのですが、今度は農家が作ったものをどこへ売るのか、という問題が残ります。

センターとしては、当然、スーパーなどへの外販を増やそうとします。

すると今度は八百屋から、「俺たちの野菜を、よそで売るな」という声が出たりします。

少し乱暴に言えば、「振り分けるな。でも、よそにも売るな」という話です。それでは、どうやって農家の野菜を売り切るのか。八百屋だけで売れないのであれば、ほかの人にも売ってもらうしかありません。

この頃には、私もかなりはっきりとそう思うようになっていました。

関さんは、その点ではかなり早くから先を見ていたと思います。スーパーへの営業を積極的に進め、外食にも提案していました。デニーズに有機野菜を持ち込み、有機野菜を使ったメニューを作ってもらったこともありました。

有機農産物を、有機のことをよく知っている人たちだけで売るのではなく、普通のスーパーや飲食店でも扱ってもらう。それは単に売り先が増えるというだけではありませんでした。


商品そのものも変わりました。

有機の八百屋だけで売っている時代には、多少大きさがばらばらでも、多少虫食いがあっても、「有機なんだから」というところがありました。人参の大きいものから小さいものまで同じ箱に入っている。中には傷んだものまで混じっている。そんなことも珍しくありませんでした。

もちろん、八百屋だって何でも許していたわけではありません。「これは何とかしてください」と農家には言います。しかし、長い付き合いがありますし、作った人の顔も知っています。どうしても、ある程度は受け止めることになります。

それがスーパーへ行くと変わります。

隣には普通のほうれん草が並んでいます。見比べて、明らかに状態が悪ければ売れません。欠品すれば棚が空きます。約束した日に届かなければ困ります。売れなければ返品ということもあります。

そこで初めて、「これは商品として通用しない」ということが、はっきり返ってきます。

有機農産物の品質が大きくよくなったのは、スーパーなど一般の売場に並ぶようになった頃からではないかと、私は思っています。閉じた世界の中の商品ではなく、普通の商品と同じ売場で、普通のお客さんの目にさらされるようになったことで、品質、規格、納期、価格といった考え方も少しずつ変わっていきました。

だからといって、一般流通の方が優れていて、有機専門流通が劣っている、という話ではありません。


これは、本の中でも何度も出てくる「関係性と拡張性」の問題です。

有機専門流通には、農家との濃い関係があります。計画的に作付を組み、多少多くできても引き受け、農家を支えます。一方、一般の流通は需要と供給で価格が動き、売れなければ値段が下がり、時には農家へ大きなしわ寄せが行きます。

どちらにも強さがあり、弱さがあります。

私は、外の世界を知って、「一般流通はよくできている」と感心したというより、「こっちも問題だらけだな」と思ったところがあります。スーパーで98円で売っている野菜の農家の手取りが50円だったり、豊作になれば価格が暴落したりする。それも現実です。

ただ、需要と供給によって値段が動くこと自体が間違っているわけではありません。農産物は工業製品ではありませんから、多く採れる年も少ない年もあります。川上から川下まで、どこか一か所だけにその波やしわ寄せが集中しないよう、どう分け合うかを考える必要があります。

つまり、有機の仕組みか、一般流通の仕組みか、どちらか一方を選ぶ話ではないのです。

有機農産物を広げたいのであれば、すでに世の中にある大きな流通を使えばいい。市場も、スーパーも、物流会社も、飲食店もあります。その仕組みの中に、有機農産物をどうつなぐかを考える。

それで有機農業の理念が薄まるとも思いません。どこで売ろうが、有機農産物は有機農産物です。

そもそも、「外に出したら有機らしくなくなる」と考えること自体、かなり内向きな発想だと思います。

有機専門の流通をなくす必要もありません。その仕組みが必要なところでは、そのまま残せばいいのです。ただ、「有機農業を広げる」という課題を置いた時には、それだけでは足りないということです。

自分たちだけで売るのではなく、外の人にも売ってもらう。

それは、何かを捨てる話ではありません。使える仕組みを使う。それだけの話です。


本書参照:
第2部「なぜ、有機は広がらないのか」
6「外側につなぐ発想が必要だ」38〜39ページ